宮尾登美子「櫂」: 本: きたあかり日記
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宮尾登美子「櫂」

2015年01月11日

宮尾登美子氏の代表作「櫂」

何度も何度も読み返した大好きな小説「櫂」。


その文章を書きうつしていた時期があった。

23年7カ月勤務した職場を勧奨退職という形で辞めた直後である。


娘は、

「おか~さんは、壊れてしまった」

と思ったそうである。


なぜ、そんなことをしたのか?

今思えば、宮尾文学の力強さで、地に足をつける勇気をもらい、

前に進みたかったからのように思う。



櫂

時は大正から昭和にかけて、

土佐の娘、喜和は、15歳で、渡世人の岩伍へ嫁ぐ。

やがて岩伍は「芸子娼妓紹介業」を始める。

貧しい娘を水商売へ紹介し、手数料をとる仕事で、

これは人助けだと、プライドを持って商売に打ち込む岩伍。

岩伍に懸命につくしながらも、女を食い物にする商売に疑問をもつ喜和。

病弱な長男、奔放な次男、大勢の奉公人や居候に、気難しい夫。

昔の女らしく、喜和は家族につくし、懸命に働くが

しかし、岩伍は、女義太夫を愛人に囲い、女の子を産ませる。

そして女義太夫が芸の道を極められるよう、女の子は自分が引き取り、

喜和に育てさせようとする。

夫が愛人に産ませた子を育てる事を、当初、喜和は拒否していたのだが、

乳母のへまで女の子が死にそうになる事件をきっかけに、

あふれるほどの愛情を女の子に注ぎ、自ら育てるようになる。

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私には、わかる気がする。

喜和が、女の子を愛し育てる心境が。


喜和は、女の子を産んだのが誰だとか、夫の浮気とか、そんなことは飛び越えて、

ただ、母性愛だけなのだ。

浮世の義理、複雑に絡み合った人間関係、夫の商売を支える妻と言う立場。

そんなアレコレじゃあない次元で、ただただ子どもを愛する。本能。

女の子の名前が「綾子」というのも、作者のウィットがとんでいるところとも思える。


この喜和という女性の生き方、

ただただ耐え忍び、流されて生きている面もありながら、やがては、

夫の商売に疑問を持ち、意見をするようになる。

    作家林真理子氏も著書「林真理子の名作読本」で

    喜和の潔癖さ(喜和は夫の商売を忌み嫌う)を魅力的と書いている。

    私も同感。大いに賛成。


確かに、夫の人生に従うしかない昔の女だし、

最後には、その夫への意見がひとつの原因となり、

最愛の綾子とも引き離され、家を追い出されてしまう悲しい運命が待ち受けるのだが、

でも、そこで、ここ大事、喜和は歩き出すのだよ。


ラストシーン。

あの音で綾子との長い十三年はもう遠く引き離されたと思い、倚り掛かっていた橋桁からもうのげに躰を離そうとして喜和はふと、後の闇の中に巴吉太夫(綾子の実母)が、舞台姿のままじっと立ってこちらをながめているような気がした。喜和はその幻に向い、生まれたばかりの綾子を手放す辛さより、十三年間天塩に掛けた綾子を手離す辛さがどれだけ深いか、涙混じりにどっと掻き口説こうとしたが、次の瞬間、幻は儚く消え、橋の上にはもとの濃い闇があるばかりであった。納谷堀川から吹き上げる冷たい風に、ショールの裾を嬲られながら喜和はゆっくりと歩き出した。



最愛の綾子とも引き離されてしまう喜和。

でも、これからの暮らしを算段し、前に進みだす。

ただ、よよよと泣いているだけじゃあない。

もう「ひかれ者(養われている立場の弱い人)じゃあない気楽さがある」と

前向きに考えている。


「櫂」には続編のような作品が多くあり、

その一つ「寒椿」については、以前もブログ記事にしたことがあった。

宮尾登美子「寒椿」は力餅

「仁淀川」など、多くの勇気をもらった。「春燈」や「朱夏」にも。


どんな過酷な運命にも、しぶとく強く、進みだす力。

切り開いていく力。

時に流され、泣きながらも。


人生いろいろある。

どうにもならず、悔しく苦しい時、

宮尾文学は、人に力を与えてくれる気がする。

圧倒的な語彙力と人間観察、ドラマチックなストーリー、が、あらゆる角度から

読者を包んでいく。


宮尾登美子氏は昨年12月30日に亡くなられた。

亡くなっても、その文章は後世まで残り、多くの人を勇気づけ励ましてくれる。

尊敬と愛情と感謝をもって、心からご冥福をお祈りする。


宮尾登美子氏





↓   読んでくださった方、本当にありがとうございます。
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コメント

無題

こんにちは。
私は小説を読まなくなって久しいんですが、フィクションのラストで女性が一人取り残されるという筋書きだと、不思議とハッピーエンドに思えるんですよ。逆に男性が一人取り残されると、すご〜く絶望的なアンハッピーに思えて、切なくて仕方ありません。やっぱり基本女性の方がメンタルは強いからでしょうかね。

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Re: 無題


ケフコタカハシさん

 コメントありがとうございます。

 男性の場合、誰かがいてあげなくちゃいけないっていう文化があるんですかね。
 おひとりじゃあ不自由でしょう。この女中兼愛人をつけますから、なんつって。
 女性は、一人だって、何とかやれみたいな。
 女性が一人取り残される小説って、具体的に何?
 興味あるわ~ケフコタカハシさんの推薦を教えてください。
 「風と共に去りぬ」くらいしか思い浮かばないし~。

無問題

若い頃読んでた小説は、もっぱら冒険譚とか戦記物でしたから、あんまり女性が主人公のは読んだ覚えがないなぁ。なんで戦記物があんなに好きだったんだろ。映画も戦争物をよく観てましたねぇ昔は。

最近のプラピ主演映画「フューリー」がちょっと気になってたんですが、今さら何を好んで戦争の悲惨さを味わいに行く必要があるんだろう、と思ってやめました。

映画でいうなら、タランティーノ監督作品の「キル・ビル」シリーズはご覧になりましたか?あれは実は母性の物語なんですよ。かなり相当エグいですけどね。

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Re: 無問題


 ケフコタカハシさん

 コメントありがとうございます。

 やっぱり「キル・ビル」観るべきですかね。気にはなってたんですが、
 あの、ユマ・サーマンちゃんの等身大パネルが町中にあった時に、
 ひいちゃって、観てないです。
 タランティーノ監督作品の「レゼボアドックス」も「パルプフィクション」も好きなので、
 多少えぐいのは、期待だわ。

No Bloblem

こんにちは。
「キル・ビル」二作ありますが、前後編で全くカラーが違います。前編はかる〜いバイオレンスアクション作品で、ぶははっと笑い飛ばせますが、後編はどん〜より重い作風です。どんな筋立てだったかも、良く覚えてません。早く忘れたかったんだと思います。
女の性の物語としてもう一つお勧めしたいのは「利休に尋ねよ」主人公は市川海老蔵演じる利休ですが、最後の最後に利休の奥さんが勝ち誇って笑う物語です。男性からすると、かなりコワいらしい。こっちはレンタルが旧作になったら、見直してみようと思ってます。

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Re: No Bloblem


 ケフコタカハシさん

 コメントありがとうございます。

 「キル・ビル」、今日借りてきました。「1」は無かった。「2」だけ借りられました。
 楽しみです。
 「利休に尋ねよ」はアタシも旧作になったら借りたいと思います・・・が、海老蔵の声がアタシあんまり好きじゃなくって・・・大丈夫かなあ。海老蔵って、こもったような声してません?好みだと思いますが。

前の題名タイプミス。No Ploblemが正しいです。

こんにちは。
市川海老蔵の声ですか、私はあまり気になりませんでした。とにかく美禿に見とれてましたから(笑)あの方、髪の毛ない方が断然カッコイイですわ。作中に若い頃の利休として髪の毛と色柄物の着物を着た姿で登場するんですが、これが全然似合わないんですよ。でもって、その似合わない姿で似合わない恋物語なんぞ演じてくれます。序盤の墨染めの衣に禿頭が美しい人間は、若い頃はこんなにダメダメだったのかと、その落差に愕然とする作品です。う〜ん、また褒めてるのか、けなしてるのかわからないレビューになってる。長々と失礼しました。

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Re: 前の題名タイプミス。No Ploblemが正しいです。


 ケフコタカハシさん

 コメントありがとうございます。

 海老蔵の髪の毛あり版、それは見て見たいです。まだ旧作になってないけど、観ようかな。
 あ、さっき「キル・ビル2」観ました。いやあ、ありがとうございます。良かったです。
 ケフコタカハシさんにはたまらないであろうアクションシーン、堪能しました~。
 ちょっと眩暈がしましたが・・・。ユマ・サーマンかっこいいわ~

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