谷崎潤一郎「細雪」: 本: きたあかり日記
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谷崎潤一郎「細雪」

2016年07月28日

長かった。

あ~読み応えがあった。韓ドラ10本見終わったくらいの達成感だわよ。

千ページというこれ、読了に一か月かかったわよ。

細雪


そして、長いのは、文章の量としてだけじゃなかったのだよ。

その一文一文、それも長かった。

ワンセンテンスが超、長い! 


例えば、こうである。


大概の大商店が株式組織になった今日では、「番頭さん」が「常務さん」に昇格して羽織前掛けの代りに背広を着、船場言葉の代りに標準語を操るようになったけれども、その肌合なり気持ちなりは、矢張会社の重役というよりも、お店の奉公人であって、昔はよくかう云う風な、腰の低い、口の軽い、主人のご機嫌気褄を取ることや人を笑わせることの上手な番頭や手代が、何処の店にも一人や二人はいたものであるが、井谷が今夜此の人物を加えたのも、座を白けさせないようにと云う心づかひでもあったことが察しられた。


ひゃ~、ものすごく一文が長い。句点がない。どこで息をしたらいいかわからない。

でも不思議と、するするっと読める。素麺を、さ~っとすすれるように、読める。


林真理子氏著「林真理子の名作読本」によると、

「とろとろとぬるく甘い飲み物を口にするように、すうっと心地よく読める小説」だそうだ。


この調子で、たらたらっと、「細雪」のお話しは進んでいく。

太平洋戦争直前、大阪芦屋に住む、大商家のお嬢様たち四姉妹の、

結婚やお見合い、ふしだらな恋愛などなどが、その豪華な生活ぶりと共に、

ほぼ大体、次女の幸子の視点から描かれている。


特に大事件が起こるわけではない。

三女の雪子のお見合い相手の家柄や財産がどうだの、

こちらが良いと思うと不手際で断られてガッカリだの、

みんなでお花見に行って綺麗だの、

四女の妙子が結婚していないのに妊娠しただの、 あ、これは大事件だ!

大病して恋人が亡くなっただの、、、、、あ、これも大大事件だった!


そんな日々の出来事が、ああでもないこうでもない、とツラツラ並べられている。


金持ちの女性のボヤキ、といったらいいか、そんなものの羅列、なんだけど、

ワンセンテンスが長い文章であれこれと物語をたどっていくと、

いつの間にか、まるで

自分がその小説の中に登場しているかのように、感情移入してしまうところが凄い。

どうでもいいじゃ~ん、と、思わせないところが凄い。


丁寧に長々と心情を吐露され続け、まるで親しい女性たちがそこにいるような

気になるのである。

秘密の打ち明け話を聞いている気がしてくるのである。


そしてラスト近く、お金持ちの女性たちを、

すっかり、自分の親戚か友達のように思えるようになるくらいになって、

物語全体に不穏な雰囲気が漂ってくるのである。


はっきり文章に不幸な事実が現れるわけではない。

けど、わかる。


ああ、こんな有名な小説に

ネタバレも何もあったもんじゃないと思うから、ちびっと内容を書いちゃうけど、


婿である夫の転勤で東京に転居した長女の鶴子は、生活に困窮していく。

大富豪の家に生まれたのに、時世柄、動産が紙切れ同然になってしまい、

肌着を譲ってくれないかと妹に手紙を出すくらいになる。


物語の主人公とも思える次女の幸子は、すぐ下の妹が嫁ぎ、

その下の妹がふしだらな出産(死産)の後、家を出ていき、

長年の気心知れた女中が縁談で実家に帰り、

ひどく寂しがっている。


結婚しないまま、バーテンダーの子を孕んだ(死産)四女の妙子は、

世間体を重んじるために、婚礼の支度もなしに、

バーテンダーとの結婚、同居に踏み出すが、

家に自分の荷物を取りに戻るのさえ、こそこそっとなのである。


そして、これだよ、これなんだよ。ここポイント。

ポイントは三女の雪子

何度も何度も見合いしてやっと子爵さまの子との結婚が決まった雪子だよ。

結婚のために東京に発つというその日、下痢が止まらないのである。


読者は、三女の幸子が、かなりの性格の変わっている、

わがままな娘であることを知っている。

自分の婚礼に義理の兄や姉が奔走してくれても、感謝の気持ちなんて

全然持たない。

そのうえ頑固、しかし引っ込み思案。見合い後に自分の意思を伝えることすら、躊躇する。

結婚前は、すぐ上の姉、幸子が、彼女の気持ちを推し量って、なんでもしてくれていたが、

今後はそうはいかない。

相手は華族さまのボンボンだし。自由人だし。

その結婚は、なかなか難しいということは目に見えるようだ。

下痢しているのは、その暗示?

下痢が止まらないことを表記して、長い小説は終わる。


時代は太平洋戦争直前、これから大変な時代がやってくる。

のんびり鷹揚としたこのご婦人たち、愛すべき女性、

美しい着物、美食、観劇、風流な庭、すべて壊れるだろう、破滅。

破滅が暗示されるラストだからこそ、物語全体の美しさが輝いているように思う。

不気味に。

不気味というのは、一種美しいというのを学んだわ。


細雪2



雪のシーンが全く無いこの小説。題名が「細雪」。

これから雪が降るのだろうか。

ただし大雪ではない。細い雪なのだ。たぶん、鋭く冷たい雪なんだろうけれど、

大雪ではない。

意味深だなあ。


本の後ろのほうに、谷崎潤一郎氏自らの回顧録があったので読んでみると、

この小説の題名は「三姉妹」か「三寒四温」にしようと、氏は思っていたそうである。

内容と合わないなあ、と思い、咄嗟に「細雪」という字面を思い出したとのこと。

「細雪」という言葉が好きで、何かの折に使おうとは思っていたからというが、

なんとも、ぴったりで美しい題名が、そんな風に決まったと思うと興味深い。

不思議な感じもする。

細雪3



長く明けない梅雨の、日のささない暗い日中に読み、

ぬる~いお湯に長く浸かって、温められたゼリーのように、

自分がドロドロと溶けるような気分になれたよ。

ちっちゃな字に目が疲れて、目が一番に溶けそうだけれども。←老眼・・・






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コメント

読書

きたあかりさん長い物語の感想楽しめました。本が好きで ため息が付くほど面白い本でも 感想文を書くのは至難の業と云うか ブログに載せるのは躊躇しますね。今片桐はいりさんの”グアテマラの弟”を読んでいます。ブログに来てくださる方が紹介していました。知らない世界を知るのは嬉しいです。

上中下と3巻にわかれてるくらい 長いよねぇ。
読み終えるなんてすごいです^^
恥ずかしながら名作といわれる本は あまり読んでいなくて・・・
老眼が進んでますます読書が面倒にならないうちに 挑戦してみようかな(笑)

 細雪は有名な古典ですが、まだ読んだことがありません。きたあかり様解説を読むと、なんか面白そうです。
 結婚もしていないのにバーテンダーの子を孕むなんて、今でも充分ふしだらですね。下痢が止まらないのはえらく色気ないですね。
 読んでみたくなります。

コメントの編集

細雪は娘が読んでました。
一文が長くて2ページくらいあるんよ~とか言ってましたが、本当に長いですね。
不精私は文学をほとんど読まないので、この長い文章が素麺のようには入ってきませんでした…
しかし日本人の教養として、日本の古典はある程度は読んどくべきですね…
夏目漱石のように短いセンテンスで、かつわかりやすい文章はまだ読みやすいんですけどね。

Re: 読書


tugumi365さん へ

 楽しめた、と言ってくださり、ありがとうございます。
 こんな記事、誰も読んでくれないのでは?なんて思いながら、
 書きたくて書きました。

 でも、感想文を書くのは至難の業、というtugumi365さんのお言葉の通りで、
 自分の思いをどう文章にしたらいいか、この記事を書くに際し、
 かなり悩みました。
 悩むのが面白かったです。

 何とか、この素晴らしさを少しでも良いから表現したい!という意欲は
 怠惰な自分の日常を引き締めてくれる活性剤です。

 グアテマラの弟、今検索してみたら、エッセイなんですね。
 面白そうです。読んでみたいです。

Re: タイトルなし


 おかっぱたこさん へ

 長いっす。でも面白いから苦になりません。
 目が元気なら、一日中読んでいたと思いますが、
 目が溶けそうになるので、休み休み読みました・・・
 
 これは、若い女性より、中年以降の女性の方が、
 感情移入しやすいと思います。
 人付き合いの微妙な機微、でも有る自分の意見、社会情勢の変化、
 夫の事、子供の事、親戚同士のつきあい・・・
 う~ん、たまらないわ。
 ぜひぜひ~この怪しい世界に突入してくださ~い☆

> 恥ずかしながら名作といわれる本は あまり読んでいなくて・・・

 アタシもあんまし読んでないです。
 おかっぱたこさんも、何かおすすめあったら教えてくださいマセ。

Re: タイトルなし


 ひねくれくうみんさん へ

 超面白いです。
 ぜひ読んでみてください。
 女性の心理が、あ~でもないこ~でもないと、長々つづられ、
 友達とのランチお喋りが、小説になったのかと思ってしまう妙な錯覚に
 襲われます。

>  結婚もしていないのにバーテンダーの子を孕むなんて、今でも充分ふしだらですね。

 この子、妙子は、周囲公認の恋人がいるのに、
 写真家であるほかの男性が好きになって結婚をせまり、
 でも、その写真家が不幸な病気で亡くなると、
 元の恋人とまたつきあって、気のあるふりをして宝石など高価な贈り物をさせて、
 でもバーテンダーが好きになって、自ら迫って・・・落として・・・妊娠。
 かなり行動的です。
 
>下痢が止まらないのはえらく色気ないですね。

深窓の令嬢として描かれていた、この雪子を
 そう描くって・・・

 ああ~読んでみて!
 絶対図書館にあるから!



Re: タイトルなし


 つばめとそらさん

 はい、小説全体が全部、文章なが~い、です。

> 不精私は文学をほとんど読まないので、この長い文章が素麺のようには入ってきませんでした…
> しかし日本人の教養として、日本の古典はある程度は読んどくべきですね…

 人それぞれ、趣味もそれぞれで、別に本を読むのが好きじゃないなら
 読まなくても良いと私は思います。
 アタシも、そんなに本を読むほうではないです。

 「本を読むと想像力がたくましくなり、人への思いやりの気持ちをはぐくむことができる」
 絵本読み聞かせ講座に関連した勉強会で、先生はそう言いますが、
 思いやりの気持ちは、ほかの方法でもはぐくむことができる気がするんです。

 と、娘さんが読まれたんですね!
 若い女性がどんな感想を持つか、聞いてみたいものです。

あかりさんの感受性の豊かさを感じました。
本を読んだ感想をこんな風に表現できるのはさすが、ですね。

『細雪』私も好きで何回か読んでます。
あかりさんのブログを読んで、また思い出して本箱から取り出してきました。
新潮文庫の上・中・下、紙の色が薄茶色に変色してます

雪子が下痢をしていたのが最後だったとは忘れていました
吉永小百合さんが雪子を演じた映画の印象が強く残っているみたいです

天使園

怠惰な日常の活性剤・・私も同じように思います!!トラピスチヌ修道院に電話しました。本は販売しています(1800円)。マダレナは午前中で売切れるので (来る)日にちと時間を教えてくれれば お取り置きしてくれるとの事です。水曜日定休日とネットで乗っていましたが この時期は毎日開店しています。駐車場は市営の駐車場が有料ですがあります。シスターの手作り マダレナ・ホワイトチョコ・クッキーがあります。我が家からは遠いですが今度行ってみたいです。売店の電話は0138-57-3331です。買うことで修道院の支援になりますね。

私も学生時代に読みました。
読み終えたときはマラソンを完走した気分でした(笑)
その後、映画も観たけど、話の内容忘れています。
下痢してたんだ〜?
やっぱ人生プラマイ0になるように出来てるのかしらねぇ。

Re: タイトルなし


keserabaさん へ

 誉めてくださり、ありがとうございます。
 そ、そんな大そうなものではないのですが、、、
 一生懸命は書きました。礼!

 映画には何度もなっているとのことで、
 観てみたいと思っていたのですが、
 吉永小百合さんが雪子ですか!ちょっとびっくり!
 雪子は一癖も二癖もある人物ですよね。
 古い道徳の中に生きるようでいて、
 自分を人一倍大事にしている・・・・う~ん。

 とにかく、観てみます!どう演じたのかしら~

Re: 天使園


 tugumi365さん へ

 わざわざ電話までしてくださったのですね! 
 ありがとうございます。
 貴重な情報です!電話番号までお知らせしてくださるとは!
 函館旅行が、ますます楽しみになりました。

 駐車場は、あちらこちらで探す必要を感じ、
 ちょっと不安なのですが、レンタカーのナビでなんとかなるかしら・・・

 

Re: タイトルなし


 さとちん へ

 マラソン完走!言い当て妙です!その通り!笑

> やっぱ人生プラマイ0になるように出来てるのかしらねぇ。

 出来てんのかしら~
 じゃあ、アタシ、これから幸せ街道まっしぐらだわよ。
 やった~☆
 遠慮せずに人生を楽しまなければ!
 ↑実は、最近、、、
 「毎日こんなに怠惰な生活をしていて、人としてアタシはどうなのか」
 などと思ってしまうのです。笑

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